『マレンカ』

ドイツの代表的な児童文学作家として知られるイリーナ・コルシュノフの、大人向けの小説をご紹介します。この本は、内容も訳もすばらしいのに絶版扱いになっています。

【あらすじ】
マレンカは1926年、ドイツの地方都市ピューリッツ(現ポーランド領)に生まれた。母親は出産後しばらくして他界。父親は別に家庭があり、金を仕送りしてくれるだけの存在だったので、マレンカはポーランド人の祖母アンナに育てられた。アンナは毛織職人小路のはずれで部屋を間借りし、家でソーセージを作っては売り歩き生計を立てていた。豚の血や香料など悪臭を放つ環境で暮らしながらも、マレンカは品のある娘に成長し、学校でも優秀な成績をおさめた。その後、銀行の見習職員になって安定した生活をしていたが、戦争によりマレンカの人生が大きく動き始める。1945年、マレンカは友人ローレと共に避難中、敵機の機銃掃射を浴びた。九死に一生を得たマレンカは、死亡したローレの名を借りて新しい偽りの人生を築いていく。

【感想】
幼い頃から「ポーランド婆の孫」、「貧しく臭い家で育った父親のいない子供」とレッテルを貼られていたマレンカは、新しい名前によって表面的には良家の子女ローレに生まれ変わることができました。しかし、人格まで変わるはずもなく、これまでの人生をすべて否定することもできず、心に葛藤を抱えます。自分はどうやって生きていったらよいのか、何度もマレンカは迷いますが、そのたびに、亡き祖母が教えてくれた処世訓を思い出します。≪望みを持たない人間は、たづなをとられた馬みたいな生き方しかできないよ≫ ≪得になることをしなくちゃだめだよ。のろまな犬は残りの餌にしかありつけないものさ≫(『マレンカ』福武書店・酒寄進一訳より引用)。
祖母の言葉に背中を押され、マレンカは強くしたたかに生きていきます。彼女の生き方には賛否両論あると思いますが、困難な時代を独りで生き抜くマレンカの姿には感銘を受けました。

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